【JNCAP5つ星は無意味】後部座席に大切な人を乗せるための車選び

カーライフ

JNCAP(Japan New Car Assessment Program)とは、自動車の安全性に関する評価プログラムであり、星の数で車の安全性を客観的に評価する仕組みです。星は1つから5まであり5つ星は最高評価を意味します。

JNCAPは予防安全性能評価衝突安全性能評価という2つの側面で自動車の安全性をテストし星の数で評価を行います。そのなかでも実際に事故に遭ってしまった場合に重要になるのが「衝突安全性能評価」です。評価のために実際に車の正面や側面、背面からの衝突実験を行い安全性を評価しています。

”JNCAP5つ星=安全” ではない

タイトルで【JNCAP5つ星は無意味】と強烈な表現をしましたが、これはある一面では事実です。

JNCAPで5つ星を獲得するための基準は年々変化しますが、直近の基準を例にとると100点中82点獲得することで5つ星を獲得できます。

100点の内訳は以下の通りです。

乗員保護性能フルラップ前面衝突21点
オフセット前面衝突21点
側面衝突15点
後面衝突頚部保護2点
歩行者保護性能頭部保護32点
脚部保護5点
シートベルト着用警報4点

今回は大切な人を乗せるためと題している通り同乗者の安全性に着目したいです。

シートベルト着用警報がない車はほぼ存在しないためグレーアウトした「歩行者保護性能」と「シートベルト着用警報」は一旦おいておきましょう。大切な人を乗せるために重要なのが「乗員保護性能」です。「フルラップ前面衝突」と「オフセット前面衝突」は共に21点という非常に大きな割合を占めています。いずれも手法が異なるだけで前方から車が衝突した場合を想定しています。

※詳しいテスト内容は公式サイトに掲載があるため説明を省略します。

前方から追突するケースは逆走車や暴走車というどうしようもないケースを除けば、自身がよく気を付けて運転することで防ぐことが出来るほか、最近では自動ブレーキなども軽自動車ですら標準装備されており、意外と発生しづらい事故です。一方で気を付けても避けようがない事故は側面からの衝突や後方からの追突でしょう。

しかし、側面からの衝突は評価点のうちの15%を占めるのみで、後方からの追突に至っては僅か2%です。つまり、後方からの追突に関して全く無力な車であっても最高で98点の高評価を得ることができます。極端な話をすれば、後方と側面からの追突で容易に死傷者が出る危険な車であっても、その他の項目が満点であれば83点で最高評価である5つ星を獲得することができるのです。

客観的に評価するには何らかの基準が必要ですからJNCAPの衝突安全性試験の内容に問題があるわけではありませんが JNCAPで高評価=安全ではない という点を留意する必要があります。

後部座席の安全性はほとんど評価されない

JNCAPの衝突安全性能評価における乗員保護性能では以下の4項目が試験されることがわかりました。

  • 2種類の前面衝突
  • 側面衝突
  • 後面衝突

これだけ見ると、前後左右からの衝突に対してすべての座席を試験していると勘違いされる方も多そうです。しかし、2種類の前面衝突試験のうち後部座席の安全性を評価するの1種類だけです。更に側面衝突と後面衝突に至っては後部座席の安全性を一切評価しません。

つまりJNCAPにおける後部座席の安全性評価は以下のような特徴があります。

  • 評価全体における後部座席の安全性の占める割合は1割未満
  • 側面からの衝突時の後部座席の安全性は一切評価しない
  • 後面からの衝突時の後部座席の安全性は一切評価しない

例えば軽自動車でJNCAP5つ星を獲得して話題になったホンダ・N-BOXの衝突安全性能評価の映像から一部抜粋してみましょう。

これは側面からの衝突です。

この試験では後部座席は評価されません。また乗用車のバンパー位置を想定した衝突位置になっているため軽自動車特有の乗員の頭部すぐ横にある垂直に切り立った広い窓ガラスに何か衝突した場合、一体どうなってしまうのか想像もしたくありません。

また、後面からの衝突安全性能試験は実際に衝突試験を行いません。

このように後面から衝突された状況をシミュレーションして衝撃を加えるだけの試験を行います。もちろん後部座席の安全性は評価されません。

基準は年々変化する

先ほど軽く触れたように、安全性能試験の基準は年々変化します。

欧州では似たようなユーロNCAPというプログラムが存在しますが、こちらは車両の形状によって評価基準も異なることがあります。(例えばオープンカーよりセダンの方が基準値が高い、など)つまり、5年前に5つ星を獲得した車と今年5つ星を獲得した車では安全性能に違いがあるということです。

5年前に登場した車を現在の水準で評価した場合には5つ星ではなくなってしまう可能性もあります。基本的に安全性能試験の基準や試験内容が”甘くなる”ということはないです。安全性能もメーカーの努力により年々進化しています。そのため、非常にざっくりとした言い方ですが車は新しければ新しいほど安全と言っても過言ではないでしょう。

特に安全性能試験が一般化してきた15年~20年前あたりから安全性能の進化は目覚ましいです。

大切な人を乗せるなら開口部の狭い大きな車を選ぼう

車の安全性は車体の大きさだけでは評価できません。

世界中に似たような衝突安全性能試験が存在しますが、有名メーカー製の大型のSUVであっても非常に危険という評価を下された車は多数存在します。大型トラックに追突された場合、ラダーフレームを備えた大型SUVであっても真ん中から折れ曲がるほどの力が加わります。しかし、それは20年近く前の話であって近年では一部の新興国向け車両を除けば安全性が大きく向上しています。

大きい車は大きい車なりに安全になっていますし、小さな車も進歩が続いています。その弊害として、車がどんどん肥大化していることが問題にもなっているほどです。そんな中で、全長や全幅に極端な制限のある軽自動車や、開口部が広く室内空間を限界まで広げたバンの安全性が低いことは最早説明するまでもありません。

くれぐれも後部座席に大切な人を乗せる際には、軽自動車やバン(特に3列目)を使用しないことを強くおすすめします。剛性が確保しやすく開口部の狭いセダンや、実用性を重視する場合にはステーションワゴンが良いでしょう。気をつけても避けようのない追突事故では前方の車と追突車で板挟みにされてしまいます。軽自動車が大型トラックなどに挟まれれば1メートル以下まで圧縮されて乗員が助かる可能性は極めて低いです。

利便性や税金・保険といったコストも重要ですが、後部座席に乗せる人の命と天秤にかけてみてください。これはかなり前の写真ですが、停車中に中型トラックに追突されたBMW・3シリーズです。

ホイールベースが片方だけ縮み前の車と板挟みになり前方も激しく破損しています。計5台が関連する玉突き事故になりましたが、室内空間は安全が確保されていました。

この経験から、私は後部座席に大切な人を乗せるのであれば最低でもDセグメント1と決めています。日常的に後部座席を使う機会があるのであればEセグメント2を選ぶでしょう。また、新しければ新しいだけ安全と考えて良いと思います。高級車であっても安全性能試験が一般的でなかった20年以上前の車は避けるようにしています。

近所限定の1人乗りならコンパクトカーや軽自動車もアリ

ここまでの説明でもわかる通り、JNCAPで高評価を得た車は前席の安全性が一定水準を上回っていることがわかります。開口部が広く小さな車であっても、速度域が低い街中で短距離を走る分にはそこまでナーバスになる必要はないでしょう。(とはいえ、地方でたまに起こる落石など飛来物による事故では軽自動車などの開口部が広く乗員との距離が近い車では悲惨な事故につながるケースが多いです)

近年の自動車の安全性能の進化は目覚ましく、確かにJNCAP5つ星を獲得したN-BOXは素晴らしい車です。そのため近所限定の1人乗りであれば軽自動車も考慮して良いと私は考えています。JNCAPの試験結果や試験内容、試験時の映像も公開されています。

こうしたものから各自が判断して妥協点を見付ければ良いと思います。

決して軽自動車やミニバンを否定する気はありませんが、くれぐれも本当に大切なものを見極めて、車の安全性に関する情報をしっかりと調べたうえで車を選択してください。車はあまりにも日常に溶け込み過ぎて危険視されることが少ない存在です。しかし、車は簡単に人の命を奪うことができる危険な道具です。

いまいちど車の安全性について多くの人に考えていただき、悲しい思いをする人が1人でも減ることを願っています。

  1. Dセグメントとは、いわゆる普通サイズのセダンやワゴンを指します。日本車ではトヨタ・カムリ、日産・スカイライン、スバル・レガシィ、輸入車ではメルセデスベンツ・Cクラス、BMW・3シリーズなどが該当します。最近ではコンパクトという呼ばれ方はされなくなってきました。 ↩︎
  2. Eセグメントとは、いわゆるミドルサイズやちょっと大きめのセダンやワゴンを指します。日本車ではトヨタ・クラウン、日産・フーガ、輸入車ではメルセデスベンツ・Eクラス、BMW・5シリーズなどが該当します。後席に大人が乗る場合にはこれくらいのサイズがあると狭苦しさを感じずに済みます。 ↩︎
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