マツダ・CX-60(XD HYBRID)に試乗しました。
CX-60といえばFRと直列6気筒エンジンを搭載する一時話題になった車ですが、その反面で乗り心地の悪さから悪評が広く知られているSUVです。2025年2月下旬から年次改良モデルが登場し、CX-80で得た知見を活かして乗り心地や静粛性の大幅な改善が図られる予定です。
私はGTカーが好きで、そのなかでもBMW・5シリーズが特にお気に入りなのです。しかしもう良い年齢であることや、車好きな仲間たちと遠く離れた地に移住したことを機に車趣味をやめてお金のかからない車へ乗り換えるため試乗先を探しています。「車にお金を掛けずに残りの人生を」が趣旨の試乗記の第3弾です。
基本的には絶対評価としつつ、これまで試乗してきた車とも比較していきます。
〇 見た目はまずまず
見た目はまずまずといったところですが、横から見たスタイリングは伸びやかでどっしりと落ち着きがあり良いです。先に試乗しているクラウンスポーツは横から見ると安っぽいFFのコンパクトカーのようですが、そうしたがっかりするポイントがない点が魅力です。
フロントフェイスはまずまずですが、リアに関してはややまとまりに欠けます。昨今多く見られるリアデザインで、欧州車からデザインを真似るのが得意なホンダの車を思わせます。パクリとまでは言わないまでも影響を受けた結果、全体としてデザインの統一感がなくなっている印象があります。
〇 内装の質感は良好
CX-60が候補に入った理由のひとつは内装のデザインです。
質感はそれほど期待していませんでしたが、これまで試乗したなかでは随一のデザインです。質感に関してはまずまずといったところですが、デザインだけでも質感の普通さを十分誤魔化されており、価格も考えれば十分な仕上がりです。
× ターボラグが大きくハイブリッドは加速フィールが悪い
3.3Lの直列6気筒ディーゼルは2.2Lとは異なりシングルターボエンジンで、低回転域でのトルクが細くターボが効き始める回転数とのトルク変動が大きいです。昔の高級車に搭載されたような大排気量NAガソリンエンジンのような余裕や滑らかさはなく、意外としっかり踏み込まないと加速しません。また音もよく抑えられているもののディーゼルエンジンらしいノイズはしっかりと聞こえてくるためパワーはあるものの余裕ある加速とはいえません。じんわり踏み込んだだけで騒音もそう大きくならずスムーズに速度が上がるようなフィーリングはありません。
またモーターの制御もいまひとつで特にモーターが働く低速域ではモーターの出力制御の粗が目立ちます。特段アクセルフィールやペダル操作に関してこだわりがなければ気にならないかもしれませんが、意のままに操るという意味では0点です。これにトルクコンバーターレスのATの変速ショックも組み合わさることがありますから低速域での質感は低いと言わざるを得ません。
走りの質にこだわるならハイブリッドは避ける必要があります。この点だけ見ればCX-5の2.2Lディーゼルモデルの方が良いです。
× 回生ブレーキの制御も悪い
XD HYBRIDでは回生ブレーキが搭載されますが、これも出来が悪いです。ブレーキタッチに少しでも関心のある方ならガッカリする出来栄えです。乗り心地が悪いと酷評を受けたCX-60ですが、おそらくこうした加速や減速の質感も含めた走りが良ければここまで悪評は上がらなかったように思います。
乗り出して早々の印象はペダル類のフィーリングとステアリングフィールの悪いBMWという感じでした。やはり走りの質感にこだわるのであればハイブリッドは避けるか、もう少し熟成を待つ必要がありそうです。
× ステアリングも違和感がある
2WDモデルを試乗できなかったので不明ですが、4WDの影響かハンドリングは全く気持ちよくありません。ディーラーの営業さんの説明を聞いてもいまいちしっくりこなかったのですが、無意味に重く反力も不自然で、素直だけれど出来の悪い電動パワーステアリングとしか思えません。
〇 乗り心地は良い
問題の乗り心地を確認する前に、アクセル・ブレーキ・ステアリングという重要な3要素でダメな部分に気が付いてしまいましたが、乗り心地は決して悪くありません。
私はBMWばかり乗り継いできたためBMWとの比較になりますが、例えば売れ筋の3シリーズはもっと硬いです。Mスポーツでなくても、電子制御サスペンションが装着されても同じです。5シリーズとはさすがに比較になりませんが、X3と比べても大差ない硬さです。
実はCX-60の後にCX-5も乗って、世の中ではCX-5の方が乗り心地が良いとされていると聞いて驚きました。確かにCX-5はショックの角がとれたようでソフトですが、ショックが0になるわけではないうえ、ソフトさを得る一方で揺れの収まりが悪いです。車体の揺れがすぐに収まるCX-60と、グラグラと揺れてソフトに受け止めるCX-5。個人的には前者の方がずっと乗り心地が良いと思うのですがこのCX-5のようなグラグラの方が快適と感じる人が多いそうです。斯くいう僕が今回こうしたグラグラを嫌って乗り換え先を探しているので驚かされました。
△ 静粛性はまずまずだがエンジン音はまだまだうるさい
車内の静粛性はまずまずですが、エンジン音に関してはまだまだうるさいです。ガソリンエンジンでこの仕上がりであれば「ガサツなエンジン」と評される程度のうるささです。振動もやや侵入があります。
外から聞いたエンジン音はよく抑えられており、トラックのようにうるさい欧州車のディーゼルエンジンモデルと比べるとよく音を抑えていると思います。ただ外の音より中の音をもう少し頑張って抑えてほしいところです。ロードノイズや車外からの音の侵入もこの世代の車としては平均点程度です。決して静かではありませんが、特段うるさいわけでもありません。タイヤがあまりコンフォート系ではないですから、これを変えるだけでも十分な静かさは得られそうです。
〇 価格は意外と安いし、中古車は激安
CX-60は500万越えのイメージがついていましたが、ハイブリッドモデルを除けば400万円台前半から手に入れることができます。モーターや回生ブレーキ制御が悪く走りの質感を落としていることを考えると、ハイブリッドモデルはそもそも選択肢に入りません。
これに加えてネットを中心として主に乗り心地に関する評判が悪いせいか中古車価格は更にお買い得です。たとえば評判が悪くてもメーカーやディーラーが下取り価格を下支えするためクラウンスポーツの中古車価格は急激には落ちないと思いますが、マツダでは中古車価格の低さが明白です。むしろ車両価格が安価なCX-5と逆転現象まで起きているとのことでCX-60のバーゲンプライスぶりが強調されます。
総評 71点 ハイブリッドでなければ出来の良いSUV
総括するとハイブリッドモデルさえ選ばなければそこそこ楽しく走れるうえに車体の揺れの収まりも早く、グラグラという揺れもないため非常に良い車です。内装の質感も良く、価格も安いです。FRベースということで荷室空間こそ狭いものの、これは4.7m台のFRベースのSUVと考えれば一般的なものでBMWばかり乗ってきた私からすれば妥当な広さです。
実はこの時CX-80も試乗しました。CX-60は2025年2月の年次改良でCX-80で培った技術を使って乗り心地を中心とした大幅な刷新を予定しているそうです。その時CX-60の乗り心地もCX-80っぽく近づくことが予想されています。
CX-80は確かに乗り心地が良好なのですが、私の感覚からすれば国産大衆車に近づいた印象を受けます。CX-5はソフトだが揺れの収束が遅くグラグラすると評しましたが、CX-80の乗り心地はCX-60から一歩CX-5の方に近づいた印象を受けます。これがどの程度CX-60に反映されるか不明ですが、例えば私のように好きでBMWに乗っていたが車両も維持費も安い国産車へ乗り換えたいと思うのであれば2025年の年次改良前のCX-60の方が満足いく車になってしまう可能性もあります。