中古価格もこなれてきたF30型3シリーズが買い時です。手頃な価格で入手できる3シリーズを今狙っているという方も少なくないでしょう。また、初めての輸入車として挑戦してみよう!と考えている方も居られるかもしれません。
自動車メディアでは良い評価ばかりに焦点が当てられ、なかなかネガティブな意見を発信しているメディアは少ないです。そこで、多くのBMWを乗り継ぎ、現在はF30型3シリーズ(320i)に落ち着いた私が あえてデメリットに着目して 注意点や問題点を紹介したいと思います。
手頃な価格で入手できるとはいえ、大きな買い物であることに変わりはありません。良い点ばかりではなく悪い点も加味してより良い買い物ができると良いなと考えています。
0.BMW・3シリーズとは?
そもそも、BMWや3シリーズがどのような立ち位置にあるでしょうか?
ここ50年ほどのBMWは「駆け抜ける喜び」を追求し、高い実用性と気持ち良い走行フィーリングを売りにしています。つまり「実用性」と「走行性能」の両立です。
ここで言う「走行性能」とは、「速く走れる」という意味ではなく「楽しく走れる」という意味です。あるいは安定性のような走行中の安心感も含まれます。例えば、加速タイムや峠やサーキットでタイムを出したい!なんていう人にはほとんどのBMWは不向きです。
そんななかで3シリーズは コンパクトセダン の位置付けです。最近では大型化が進んでコンパクトと呼ばれることが少なくなりましたが、その位置づけを理解する上では欠かせないポイントです。3シリーズが「コンパクト」ということは、より大きな「普通」サイズが存在するということです。この普通サイズこそBMWの中核モデルである5シリーズです。
つまり、5シリーズは「実用性」と「走行性能」のバランスをちょうど良く取っているモデルといえます。一方で3シリーズは「実用性」よりも「走行性能」寄りのモデルといえるでしょう。
特に最近の5シリーズはこの両立が絶妙なバランスでまとまっており、車好きのための実用車として完成形に限りなく近いと言えます。既に登場から30年近く経過したE39型の5シリーズで実用性と走行性能の高度な両立を果たし、最高のスポーティセダンとしての評価を確立しました。一方で昨今の5シリーズは5m近い全長もあって多くの人にとっては大きすぎる車になってしまいました。
この3シリーズの位置づけからわかることがあります。BMWのラインナップのなかでは安価で実用性より走行性能を重視するため以下のような要素に妥協が見られます。
- 高級感
- 快適性
- 静粛性
- ゆとりあるスペース
- 荷物の積載性
これはF30型だけではなく代々の3シリーズの伝統のようなものです。特にインテリアの高級感や乗り心地の快適性という面では褒められたものではありません。最近ではインテリアの高級感は改善が見られるものの、レザーやウッドをふんだんに使ったラグジュアリーラインを除けば「安っぽさ」は隠せません。
車内のスペースも大人4人が乗ることはできるものの後席は狭く、現実的には大人2人で乗るのが適当です。
1.エンジン(パワートレイン)の出来が悪い
さて、早速3シリーズ(F30)のデメリットを紹介していきましょう。
第一の問題点はエンジンの出来の悪さです。エンジンはBMWが大切にする「駆け抜ける喜び」と切っても切り離せない関係にあります。また、BMWのエンジンは今まで高い評価を受け続けてきました。「エンジンがダメなのに楽しく走れるの?」と思われる方も多いでしょうが、はっきり言って楽しく走れません。
実を言えばエンジン自体の出来は決して悪くありません。正確にはパワートレインとその制御が悪いのです。これは喜ばしいことではなく、むしろ非常に悪いポイントです。エンジンは、サウンドや振動を筆頭にスムースな吹け上がりやパワーが重要な評価点です。
歴代の3シリーズ同様に、今回の3シリーズに搭載されるエンジンも数値だけ見れば特筆すべき点のない普通のエンジンです。しかし、過去の自然吸気エンジンは非常に少ない振動、気持ちの良いサウンド、スムースな吹け上がり、自然な加速感など数値に現れないフィーリングにおいて極めて優れたエンジンでした。BMWは6気筒エンジンがシルキーシックスなどと持て囃されがちですが、静粛性や吹け上がりの気持ちよさで言えば随分前から4気筒に軍配が上がる状況でした。(6気筒は意図的に野太いサウンドを響かせている)
しかし、このF30型3シリーズに搭載されるB48型エンジンはサウンドは実用域では耳障り、吹け上がりはのんびり、パワーはあるものの加速感は不自然でスムースとは言えない散々な出来です。スペックだけ見れば従来のエンジンに勝る優れたエンジンですが、BMWが大切にしていた肝心のフィーリングが大きく損なわれています。
このエンジンは最大トルクを1350rpmで発生させる典型的な昨今のダウンサイジングターボエンジンです。この特性は、逆に言えばアイドリングの600~700rpmから1350rpmにかけて急激にトルクが増すということを意味しています。組み合わせられる8速ATのお陰でこの急激なトルク変動がある回転域を行ったり来たりします。それでも変速タイミングやスロットルの制御など、いくらでも改善の余地はあるにも関わらず、制御は雑の一言です。一定の加速感を感じながらジワジワと加速したいのに、それが気持ちよくできないことがあります。意のままに操れないのです。
トルクカーブに段付きがあったり、極端にトルクの細い領域があるわけではないのですが、トルクカーブは実際の車の操作や挙動とは往々にして一致しません。こうした感性に訴えかける部分を追求していたのが過去のBMWだったのですが、残念な限りです。
2.快適性に乏しい(静粛性や乗り心地)
第二の問題点は快適性が低いという点です。
3シリーズは5シリーズの弟分的な存在であり、快適性には妥協が見られます。これが「コンパクトセダン」などと呼ばれていた時代であれば許されたのですが、今となっては3シリーズは立派なDセグメントのミドルセダンです。
また、BMWは多くの日本車やフォルクスワーゲン、フランスやイタリアの大衆車と違ってプレミアムブランド呼ばれ比較的価格も高いです。そのため快適性にも期待してしまいがちなのですが、これが全く良くありません。どっしりとした地を這うような走りを、過去の3シリーズほどではないものの感じられます。
しかし、路面のデコボコもよく拾うし、ノイズ対策もそれほど優秀とは言えません。この点においては確実に代々の3シリーズで改善されているのですが、一般的に快適と呼ばれる水準も年々向上していることから相対的に快適性は低いと言えます。
私の場合、これまで乗り継いできたBMWの各車には快適性を損なわない程度のほんのりスポーツ寄りのタイヤを履かせてきました。(主にミシュラン・パイロットスポーツ)
しかし、このモデルでは走るのが楽しくないことを理由に、正反対のコンフォートタイヤであるブリジストン・レグノを装着しました。それでも快適性(静粛性や乗り心地)は低く、20年前の5シリーズに劣るほどです。そもそもBMWは冒頭での説明のように「駆け抜ける喜び」を追求しており、7シリーズでも驚くほどの快適性はありません。
最初から「快適な移動手段」として車を作るメルセデス・ベンツなどを候補に入れると、同じ程度の車格でもより快適に過ごすことができます。もし快適な移動手段を欲しているのであれば、メルセデス・ベンツを検討するか、5シリーズ以上のモデルを強くおススメします。
3.高級感に乏しい
特にエクステリアの改善が目覚ましいこのF30型3シリーズですが、インテリアの高級感やオシャレさ、格好良さなどは褒められたものではありません。BMWのエクステリアデザインは昔から「保守的」でありながらどこか「野性味」溢れるデザインが一貫していました。
良く言えば「渋い」「男らしい」といった表現ができるでしょう。悪く言えば「古臭い」「オシャレではない」「先進的でない」などと言えるでしょう。ただ、長く乗っても見た目が古臭くならずにジワジワと良さを感じられる良いデザインでした。
それが最近では小手先の目新しさを積極的に取り入れ始め、一つ前のモデルであるE90型ではデザインを酷評されていたものです。このF30型になって保守的なデザインが戻ってきましたが、次のG20型は小手先の目新しさを重視しており、他の現行モデルとあわせて「まるでトヨタだ」などと酷評されるデザインになっています。
そんなデザインの変遷を経ている3シリーズですが、インテリアは非常に一貫性があります。操作パネル類や間接照明、メーターなどは40年近く前のE30型の時代から違和感なく乗り換えられるほどに一貫しています。このメーターとオレンジが灯った操作スイッチ類に包まれると、BMWだなぁと実感が湧きます。
残念ながらBMWのインテリアは高級感やオシャレさに乏しいことも代々一貫しており、このF30型でも褒められる要素は多くありません。もちろんコストパフォーマンスに特化して作られた多くの国産車に比べると洗練された部分はありますが、よく見るとそれほど質感の高いものではないことがわかるはずです。ラグジュアリーラインという、いわゆる高級感重視のグレードを選択することでようやく及第点レベルのインテリアが手に入ります。
4.走っていて楽しくない
第一の問題点に挙げたように、踏み込まずに滑らかに加速しようとするとギクシャクとしたアクセルワークが必要です。これは人馬一体とか、駆け抜ける喜びとか、気持ち良さとは真逆の特性です。
もちろん素速く加速しようとすればこの違和感は紛れますが、車の微細な挙動が気になる車好きにとっては物足りません。そもそも、人を乗せている時にそんな雑な運転はしたくないものです。街中でゆっくり走らせていても楽しかった往年のBMWを知る身としては物足りません。もちろん多くの実用性重視の国産車と比べればフィーリングも良く楽しいのですが、過去のBMWと比べると平凡になってしまいました。
この平凡さがむしろバランスが取れていて魅力に感じる方も多いかもしれませんが、走る楽しさを求める場合には一旦試乗してみることをおすすめします。
エンジンやパワートレインは置いておいて、フィーリングの肝ともいえるステアリングはどうでしょうか?
これも残念ながら、燃費性能のための犠牲になっています。パワーステアリングの電動化はCO2の排出量削減に明確な効果を表しますから採用せざるを得なかったのでしょう。あのポルシェ・911でさえ、電動パワーステアリングの導入で散々な酷評をされていたものです。BMWは努力の跡は見受けられるものの、お世辞にも完全な油圧パワーステアリング時代のステアリングフィールに肩を並べられるレベルにありません。ハッキリ言って明らかに劣化しています。
また、昔は多少の「遊び」も許容してくれていた横滑り防止装置も順当に進化してしまい、介入がかなり早いです。介入されたこともはっきりと感じられるほど明確で、介入された途端不自然なほどグイグイ車が内側に入っていきます。それでも車速が比較的保たれるのはすごいなぁとは思うものの、楽しいかと言われればそんなことはありません。
大雑把に足回りに関しても快適性はやや進化が見られるものの「楽しさ」という観点では同程度かやや劣ります。総じて、駆け抜ける喜びは明確に低下しています。
それでも実用一辺倒な車を作るメーカーと比べれば「比較的マシ」ということはできますが、自信をもって「楽しい」とはいえません。
総評:なぜそれでもF30型3シリーズを選ぶのか?
ここまで大きく分けて4つの問題点を挙げました。意識して酷評したつもりですが、まだまだ細かい点を挙げればキリがないのでここまでにしたいと思います。
それでは私はなぜこんな不満ばかりなF30型3シリーズ(320i)に乗っているのでしょうか?
- より排気量の大きいグレードはどうなのか?
- 5シリーズやXシリーズではダメなのか?
- なぜメルセデス・ベンツを選ばなかったのか?
その答えは「無難さ」という一言に尽きます。
パワーは必要十分であり、車体もコンパクトで日本の狭い街中でも不便がない。それでいて小さすぎず安全性も最低限確保できる。大人2人なら十分な広さで、荷物も十分に積める。エンジンも走りも良くはないが、他社と比較すれば「比較的マシ」。このモデルが最後の保守的なデザインのBMWかもしれない。
私は車が好きでBMWだけでも5台以上所有してきました。クーペやカブリオレ、SUVやセダンにハッチバックと色々趣向を変えて試してきた経験もあります。4気筒も6気筒も8気筒も。しかし、車趣味も落ち着き尖った要素よりも使い勝手の良さや快適さを求めるようになりました。古い車も好きですが車趣味も落ち着いた今維持費のかかる古い車を持つ気にはなりませんでした。新しいなかでそこそこ満足できるものを探した結果、この3シリーズに行き着いたわけです。
今の5シリーズは車体が大きすぎ気兼ねなく街中から山奥まで移動するには苦慮します。SUVは未だに走行性能において明確に不満が残ります。6気筒モデルの出来はマシではあるものの、更に高いお金を出してまで手に入れる価値を見出せませんでした。
過去の6気筒エンジンは新旧幅広く所有しましたが確かに選ぶだけの理由がありました。一方で4気筒エンジンも素晴らしい出来で個性があって選ぶだけの理由がありました。今のBMWのエンジンにはそれがありません。
逆に言えば無難で普通な車ですから、私のように車趣味を卒業して、「そこそこ楽しめるけど普通に実用的」な車が欲しい人にとってピッタリの車と言えるのです。