BMWを6台乗り継いで「マツダ・CX-60」の契約を決めた理由とは?

マツダ・CX-60

終の車さがしと題して長らく試乗と検討を続けてきましたが、最終的にマツダ・CX-60を契約するに至りました。これまで欧米の車を中心に車を乗り継ぎ、特にBMWは大変気に入って6台も乗り継ぎました。

しかしながら、人生も先が見えてきたこと。そして車を楽しむ仲間も減り、車への熱意も落ち着いてきた今、お金がかかるうえに趣味として楽しみ切れないBMWに乗り続けることに疑問を感じるようになりました。そこで車両価格はもとより維持費や耐久性、燃費の面でも優れる国産車を中心に、人生最後の車(のつもり)として車を探し始めました。試乗記としてはCX-60を含めて有力候補と言える車について5本の記事にまとめていますが、実際には1年近い年月をかけて多くの車を試乗・検討してきました。

今回最終的に候補に残り、試乗記にも残したのは以下の5台です。

往年のBMWから最新のBMWまで広く見渡した時のCX-60とは

BMWとCX-60は決して似ていません。

私がBMWを乗り継ぐことを止めた理由は先述の通り車への熱意が薄れたことにあります。しかし熱意を失わせたのは必ずしも加齢や車好きの仲間たちが減っていったことだけではありません。

保守的ながら攻撃的と評されたBMWもいまや悪い意味でトヨタのようなデザインをしており、目を背けたくなるような醜悪なデザインのモデルが増えました。美醜の価値観は人それぞれですが、私にとって所有したくなるものではなくなってしまいました。ダウンサイジングターボエンジンを中心としたパワートレインも往年のNAエンジンにあったスムースさはなく、乗る価値を感じないばかりか乗れば乗るほど失望が重なっていきます。このターボラグの明確に存在するエンジンに心の底から満足するBMWオーナーがどれだけいるのでしょうか?Mブランドを切り売りするような派手でバッチだらけのMスポーツモデルに目を覆いたくならないでしょうか?

時代に取り残された懐古主義的な考えであることは自覚していますが、私自身が今のBMWに満足できなくなったのは事実です。

1988年式3シリーズ(E30)でBMWを知り、計6台も各時代のBMWを乗り継いできました。車趣味も手伝って所有した以外にもレーシングカーからトラックまで多くの車に乗ってきました。そうしたBMWたちと比べてCX-60はどちらかと言えば近年のBMWに近い印象です。往年のBMWというか、昔の車は今の車と比べればよく動きますしグリップもありません。少なくとも往年のBMWを求めてCX-60を検討すれば期待には沿えないはずです。というか四半世紀前の車の面影を求めれば現代の車で満足できる車は一台も存在しないでしょう。更に言えば、昨今のBMWと比べてもCX-60は似ているとは思いません。しかし、いくつかの要素においてBMWに匹敵するか近い方向性を有していることは間違いありません。

私がBMWに見切りをつけて国産車を探し始めるにあたって重視したのは「振動の収束に優れること」のただ1点です。BMWが現代においてなお優れていると言えるのはピッチングが少なく揺れがすぐに収束することにあると私は感じています。この条件に応えられる国産車は多くなく、車さがしに苦労しました。

また振動の収束に優れていると感じるためにはほとんどありとあらゆる感覚。ステアリング、アクセル、ブレーキ、そして音や振動の特性に優れている必要があります。また目に入ってくる車内の様子や外の視認性も無関係ではありません。

「CX-60は乗り心地が悪い」は誉め言葉かもしれない

CX-60といえば乗り心地の悪さに関する評判が散見されます。特にデビュー当時は問題も多く、リコールや年次改良を重ねて2024年時点では随分とみられるようになったとされます。とはいえ多くの自動車ジャーナリストや評論家、そして一般ユーザーからは乗り心地を中心として厳しい意見が目立ちます。

私自身もこうした評価を踏まえてCX-60を始めとしたマツダ車は検討の候補にすら入れていませんでした。なぜなら先ほど述べたように「振動の収束に優れること」こそ今回の車探しの第一条件であり、私のなかでは振動の収束に優れること=乗り心地が良いことだったからです。

しかし、車探しに疲れ始めたころにふと気が向いてCX-60を試乗しその考え方は激変しました。

私のなかでは「振動の収束に優れること」こそが第一条件ですが、これには様々な意味合いが含まれていて単純に「振動の収束に優れる車」と検索してもGoogle検索で良い結果は得られません。だから自分のなかで振動の収束に優れることを乗り心地が良いと置き換え、世間一般で「乗り心地が良いと評価される車」を中心に試乗をしてきました。これが大きな誤りでした。

今回試乗した車がSUVを中心としているのには理由があって、終の車としてある程度のユーティリティと使い道の自由度を残しておきたかったためです。そこで、例えばレクサス・RXやレクサス・NX、トヨタ・ハリアー、スバル・レガシィアウトバックなどを試乗しました。しかし、こうした車は世間で乗り心地が良いと言われる割に振動の収束が悪く、いつまでも車体が動き揺れ続ける不快さがありました。なぜこんな車たちが快適であると評されているのか全く理解ができませんでした。

間違いに気が付いた第一歩はトヨタ・クラウンスポーツでした。内外装の悪さから候補としてはやや低い位置にありましたが、クラウンスポーツのZグレードは快適性が低いと思われるような評価が目立ちます。しかし、乗ってみるとなかなか悪くないのです。それまで自動車メディアやジャーナリストたちの評価を散々見て情報収集していたため、頭が「?」で溢れかえりました。特に利害関係の少なさ故か、あるいは差別化のためか厳しめの意見をつける傾向にあるYouTubeチャンネルを参考にしていたため、クラウンスポーツの出来は余程悪いんだろうと決めつけていたのです。

ステアリングのフィーリングやパワートレインにこそ不満はありましたし、そもそも外観は嫌いで内装は地味に感じていたため候補としてすぐに熱心に考えるほどではありませんでした。しかし、ことここに来て信じたくないもののようやく気が付かされました。一般的に快適で乗り心地が良いということは「路面からの入力を優しく受け止めて穏やかに収束させる」ことにあるのです。多くの自動車ジャーナリスト、評論家、YouTuberたちが言う快適性とはここにあったのです。道理で良い車が見つからないわけです。

CX-60の振動の収束はBMWほど優れてはいない

多くのモデルとバリエーションを持つBMWを一括りにしてCX-60という1車種と比較するのはあまりにも馬鹿げていますが、今回私が重視する振動の収束に関しては一部のエアサスペンションや電子制御サスペンションシステムを備えたモデルを除けばおおよそ一括りに話をすることができます。それほどまでに振動の収束性においてBMWの個性は際立っています。ただイメージがしやすいように、ここでBMWと言った場合にはとりあえず3シリーズを思い浮かべていただければ良いと思います。もちろん電子制御サスペンションシステムを備えないグレードです。ちょうどサイズもCX-60と同程度です。

私の場合は背の低い車が好きでしたのが比較対象として頭に浮かんでいたのは3シリーズでした。本来はX3と念頭に置くべきでしょうが、用途や予算がよほど限られていない限り、車の乗り換えにおいて必ずしも同形状・同価格帯を検討するわけではありません。流石に背の高いSUVであるCX-60に3シリーズ並の動きを期待するのは無理がありますが、とりあえず3シリーズを仮想のライバルとして試乗と検討を進めました。

2024年時点で最新のCX-60は路面の細かい凹凸に対してはそれなりに音と振動として情報を乗員に伝えます。路面を手で撫でるように情報の掴めるほどではないですがよく言えばある一定ライン以下の不必要な情報は遮って快適な車内空間を維持してくれていると言えます。ザラザラと路面の粗さまではっきりと伝えてくれる3シリーズ(特にMスポーツ)あたりとは異なります。

逆に大きな凹凸や段差はしっかりとショックが伝わりますが、すぐに振動は収まります。全く不快ではありません。とはいえ振動の性質は少し異なる感じがしていて、FFベースや極端にフロントヘビーな車たちと比べるとピッチングも感じず素直な動きに感じます。しかしBMWのようにフラットで路面に抑えつけられるような印象も強くは感じません。ピッチングというか前後方向の傾きは緩やかに生じているような印象を受けました。また振動の収束もBMWほど早くはないと感じましたが、いつまでも揺れ続けている世の中の「快適な車」とは全く別物で、私にとっては非常に快適でした。

CX-60のエクステリアとインテリア

こうしてCX-60を気に入った私ですが、CX-60のエクステリアとインテリアに関してはやや不満がなかったと言えば嘘になります。フロントは好きでもなければ嫌いでもないと言った感じですが、リアはなんとも収まりの悪いデザインです。若干他所のメーカーからの影響を強く受けているようにも感じます。本物のマフラーが隠れている点はもはや時代でしょう。フェイクというよりデザインの一部に組み込まれている感じで、これならば最初からマフラーの面影すら消してくれた方が潔いと感じます。

インテリアは国産車にしてはセンスの欠片を感じます。例えばクラウンスポーツやハリアーあるいはレクサスの各車に乗ると「国産車だなぁ」という感じのなんともオシャレさや際立ったものを感じない凡庸なものに見えてしまいます。これは小さなころから見てきて刷り込まれているのか、本当にセンスがないのかは私自身がデザインに知見を持たないためなんとも言えませんが、とにかくCX-60のインテリアはそうした凡庸さからは脱しています。実際に手で触れたり、細かく見ればややチープに感じるところもあるのですが、BMW乗りらしく質感に深くこだわりはないため十分に満足です。ただ一部グレードに備わる楓のパネルについては杢の出ている部分を適当にスライスしてきたかのような仕上がりで「なんか変わった木目が出てるならどこでもいいだろ」くらいの雑さを感じます。これであればシンプルな柾目調のフェイクウッドを使ったパネルの方が好感を持てます。

CX-60のパワートレインとブレーキのフィーリング

BMW乗りにとって重要なパワートレインとアクセル、ブレーキ、加減速のフィーリングはやや劣ると言わざると得ません。

BMWもダウンサイジングターボエンジンやディーゼルエンジンのせいでそれほど優れたフィーリングを持っていると言えなくなってしまいましたから、同程度かやや劣る程度。好き嫌いの範疇と言えると思います。

例えばエンジン単体で考えたとき、ガソリンエンジンはありきたりでごく普通でパワー不足を感じます。NAエンジンなので素直さはあって吹け上りも悪くないのですが、音が良いとは言えません。音が悪いというわけではなく、耳障りの良いエンジン音以外のメカニカルなノイズや耳障りな音も一緒に侵入してくる印象です。

ディーゼルエンジンはもちろんターボですが、CX-60に搭載される3.3Lディーゼルエンジンはシングルターボです。ただでさえ大きなターボラグが更に際立ちます。ただし、無負荷かつフルスロットルにおいては理論上低回転から最大トルクを発揮できる昨今のダウンサイジングターボエンジンとはちょっと違っていて、大味とも言えますがコントロールしやすく素直です。開度を上げれば加速するし、緩やかに踏み込めばそれなりのパワーしか出ません。これに加えてペダルの初期の応答は鈍く安全性を重視しているようですが、慣れてしまえば扱いやすいです。500Nm超えのトルクを発揮する3.3Lディーゼルエンジンはさぞパワフルで余裕ある加速をするのだろう、と過去の大排気量NAエンジンを想像して試乗すると肩透かしを食らうはずです。残念ながらそれなりに踏み込まないと潤沢なトルクは発揮されないですし、高級車に搭載されたような大排気量NAエンジンと違ってディーゼルエンジンはうるさいですから余裕を感じる加速はありません。

トランスミッションについてはトルクコンバーターレス8ATが搭載されており、低速で微妙なアクセルワークをするようなシーンではたまにぎくしゃくやショックを感じることがあります。例えば店舗から道路へ出入りするタイミングや渋滞をのろのろと走るシーン、低速でじわじわと上り坂を進むようなシーンです。しかし、これは2025年の新型で改善するとのことです。また結局のところスロットル開度と変速制御の兼ね合いなので、ある程度自身の意思でコントロールすることができます。

ブレーキについては可もなく不可もなく。十分許容できる出来をしています。

しかし、回生ブレーキが装着されるディーゼルハイブリッドは別です。回生ブレーキの制御は粗く、減速時に制動力の変化を頻繁に感じます。よほど加速度に鈍感かブレーキペダルの操作フィーリングに無頓着でなければ不快に感じるはずです。同様に加速時のモーターアシストも露骨で、モーターアシストによるトルク(加速度)の変化を感じるためアクセルペダルのフィーリングを重視する方にはかなり不快な感触です。割とディーゼルハイブリッドがスタンダードなグレード然としているように見受けられますが、試乗してよく確かめることをおすすめします。

CX-60のハンドリングはノーコメントだしKPCはドライバー用

CX-60のハンドリングについてはノーコメントです。悪い意味ではなく、本当に可もなく不可もなくという感想だからです。

電動パワーステアリング化したBMWも決して優れたハンドリングとは言えないですが、それに比肩するかと言われたら何とも言えません。好みの問題だと思います。とはいえ、FRらしい素直さがあるかと言われると微妙なところです。

それ以上にKPCの恩恵が大きく感じます。

KPCはブレーキ制御による旋回姿勢を安定させるための技術ですが、一定速度以上のコーナリングでは不自然なほどロールが少なくまるで車体がリーンしているかのように遠心力による体が外側に押し出されることを防いでくれます。KPCが機能しているかどうかは割と体感できるのですが、少なくとも体感上KPCが効いているときは非常に快適です。ただし、そもそもコーナリングで横Gを感じないように先を見通しながらアクセル開度を微調整するような丁寧な運転が身についている場合にはそれほど効果を感じられない可能性があります。私も家族を隣に乗せて走る際には緩やかなコーナーであっても事前にアクセルを操作して速度をコントロールし、車体の動きを意識してハンドルを緩やかに切ります。そうすることで同乗者の体を揺することなくドライブが可能ですが、こうした丁寧な運転をするとKPCの恩恵をあまり感じません。

元々ラフな運転をしていた場合、KPCのお陰で運転がうまくなった、あるいは丁寧になったと同乗者に思われるかもしれません。

ただ、KPCがどの程度確実に介入してどのような車の動きになるかを都度予測することは難しいため、結局のところ同乗者を乗せた運転ではその恩恵にあずかれる可能性は低く、1人で運転を楽しむための機能と考えた方が良さそうです。

BMWとCX-60 総括

5シリーズとCX-60を比べればCX-60が勝てるところなどほとんどないでしょう。3シリーズと比較するにもやはり乗り比べれば全く違う車です。X3であれば比較の余地がありそうですが、BMW・X3を買おうとしている人がついでとばかりにCX-60に試乗したとしても「CX-60の方がいいじゃん!」とはなかなかならないでしょう。

ただし、長らくBMWを乗り継いできて、なんらかの理由で国産車に乗り換えたいと思った際の1つの受け皿には成り得る1台です。

なんといっても価格が安い。スタンダードなディーゼルモデルならオプションや諸費用をあわせても500万円台前半で手にすることができます。これに加えて輸入車とは違って部品代や修理費用は安上がりです。耐久性も個体差や運、使い方にもよるでしょうが、おおよそ国産車であるCX-60の方が故障しづらい傾向にあるはずです。故障が少ないということは中古車という選択肢も大いにあるでしょう。中古車であれば1年落ちでも300万円台で手が届きます。最上級グレードでも500万円を下回ります。

タイトルとURLをコピーしました