トヨタ・クラウンスポーツのハイブリッドモデル「Z」グレードに試乗しました。
クラウンスポーツは全長4.8mを切るコンパクトSUVで、実用性より見た目を重視したクラウンシリーズのなかでも異彩を放つモデルです。それゆえに賛否両論があって、クラウンスポーツの評判を調べようものなら想像以上に不評の声が目立ちます。特にハイブリッドモデルである「Z」グレードは快適性に関する悪評も目立ちますからクラウンにある一定の快適性を求める方にとっては候補から早々に外れる車です。
私はGTカーが好きで、そのなかでもBMW・5シリーズが特にお気に入りなのです。しかしもう良い年齢であることや、車好きな仲間たちと遠く離れた地に移住したことを機に車趣味をやめてお金のかからない車へ乗り換えるため試乗先を探しています。「車にお金を掛けずに残りの人生を」が趣旨の試乗記の第1弾です。
× クラウンスポーツは高身長が収まらない!
クラウンスポーツに乗り込んで一番に気が付いたのは頭と天井の隙間がほとんどないことです。シートを一番低くしても指が数本入る程度ですから身長180cmを超える方は注意が必要です。わずかな隙間しかありませんから、髪の毛が短めの方やふんわりとボリュームがある場合は髪の毛が天井に触れてしまいます。帽子をかぶればこれは回避できますが、人間の体とは不思議なものですぐ近くにものがあるとなんとなくそれを感じ取れてしまいます。それゆえに窮屈さが否めません。
私の場合は頭痛持ちということもあって、こうした些細な違和感が痛みの原因につながることもあります。もちろん望まないポジションにシートを調整すれば髪の毛が天井に触れないようにできますし、帽子をかぶるのも一つの手ではありますが、車趣味を止めて長く乗れる車を探そうというのに普段使いに差し障りがあるのはちょっと悩ましい問題です。
〇 シートとステアリングの調整範囲はBMW好きも満足するが
シートの調整範囲は広くステアリングも電動で適切な位置に調整することができます。特に自然な位置に調整したときに着座位置が低く、BMWの3シリーズや5シリーズといったスポーツセダンに長らく乗ってきた方でも着座位置の高さを感じることがありません。
その状態でステアリング下部を軽く握ったときに、自然とアームレストに肘を置くこともできてポジショニングはかなり良好です。クラウンにこうした車の深い部分の良さを期待していなかっただけに好感が持てます。
× 視界は悪い
フロントウィンドウはもちろんのことすべての窓の上下高が狭いため視界は非常に悪いです。通常のセダンなどと比べても視界は狭く、フェンダーが張り出した形状もあって幅は1800mm台とごく普通ですが感覚をつかむには少し時間が必要になりそうです。
安全確認にも支障があります。アラウンドビューモニターこそ備わりますが、目視による安全確認においては不安が残ります。
× 外観は軽薄で内装は安っぽい
クラウンスポーツは見た目が評価されることが多く、実際にその見た目のために車内空間や視界や安全性を損なっています。しかし、私の感覚からするとこれまでのトヨタ車同様の軽薄で数年経てば陳腐化し、10年経てば古臭く感じるようなデザインにしか見えません。横から見ればFFベースの大衆車といった佇まいで伸びやかさもなく格好良さは微塵も感じません。少なくとも見た目でこの車が欲しいという気持ちは沸きません。(今回試乗したのも、サイズがコンパクトで燃費も良くある程度の上質さを期待できると踏んだからです)
また、内装に関してはいつも通りのクラウンといったところです。
突出した部分がなく地味で、高級感や上質さをアピールするところもなく質実剛健といったところでしょうか。昨今は多くのメーカーが内装の質感向上に努めているなかで、一昔前から進化していない印象を受けます。とはいえ特別悪い部分があるわけではなく、価格を加味すれば安っぽいという程度です。
〇 乗り心地は悪くはない
21インチホイールを装着し、その短いホイールベースとコンパクトなボディから乗り心地の悪さを想像してしまいますが、電子制御サスペンションが搭載されないZグレードであってもそれほど乗り心地は悪くありません。しかし、高級車に相応しいかと言われればそんなことはありません。ちょっと頑張ったコンパクトカーといったところです。見た目もいまいちなのに21インチにこだわる意味はよくわかりません。もし買った暁には19インチか20インチにインチダウンしたいところですが、シャシーセッティングをどこまで21インチに合わせこんでいるか不安が残ります。
SUV特有のふらつきも気になりませんが、インチダウンした時にそのふらつきが表出し始める可能性はゼロではありません。
× 静粛性は普通だがサンルーフを装着するとうるさい
さすがクラウン。コンパクトカー並のサイズと21インチホイールを装着しながらも静粛性はまずまず頑張っています。2.4Lターボエンジンを搭載するプラグインハイブリッドモデルは耳障りなエンジン音がかなり車内に侵入してきます。こちらの2.5Lエンジンもエンジン音は想像以上に侵入してくるうえ、音も決して良くないのですがギリギリ及第点です。
ただし、サンルーフを装着すると風切り音や雨音がかなり侵入してきます。これが低価格なコンパクトカーであれば納得ですが、クラウンであることを考えるとちょっとがっかりな出来です。サンルーフなしモデルを選べば良い話なのですが、たった10万円ちょいで広大なガラス面積を誇るサンルーフを装着できるとなると悩ましい点です。
△ 価格は高いように見えて結構安いがその価値はない
ハイブリッドモデルのZグレードで価格は590万円ですが、ほとんどオプションの選択肢がないため諸費用を入れても総額は650万円以内に収まります。またトヨタ車はスマートフォンでいうiPhoneのように中古価格を下支えするためにある程度下取り価格の保証をしており乗り潰さない限りは実際の支払価格がかなり抑えられるのが特徴です。
とはいえ、そもそも590万円の価値があるかと言われればここまで述べてきたように見た目イマイチ、内装安っぽい、乗り心地や静粛性はぼちぼちという評価から鑑みると価値アリとは言い切れません。これが輸入車であれば590万円で納得ですが、国産車と考えると割高です。
また輸入車の競合でいえばBMWやメルセデスベンツのコンパクトSUVたちと比べても内外装の軽薄さや安っぽさ、センスがないためやはり割高でしょう。
△ ハンドリングや走りの楽しさは特になし
クラウンスポーツと銘打たれてはいるものの、ここでいう「スポーツ」とは決してスポーティだとか走りが良いだとかそういった意味合いではありません。あえて言うなれば「遊びを満喫するユーティリティカー」といったところでしょうか。
やや遊び心に富んだデザインとSUV故の多少のユーティリティで遊びや趣味のお供にぴったりなライフスタイルに合わせられる車です。まさにトヨタっぽい思想が色濃い車で決して生活の中心に車があったり、車の性能にこだわりがある人のために作られた車ではなくファッションと同じような感覚で選ぶ車です。
ハンドリングは決して悪いわけではありませんが手ごたえが薄く駆け抜ける喜びとは無縁です。ただし、何も考えずにだらだらと運転する分には楽と言えるかもしれません。アクセルフィールはトヨタのハイブリッドらしくバッテリーとエンジンの出力のコントロールは良いですがバッテリーの介入によるトルク変動は明らかですから望んだ加速を意のままに操るような楽しみはありません。
総評 55点 トヨタの盛り盛りコンパクトSUV
総評としてはごく普通のイメージ通りのトヨタ車という感じで新しさや革新、性能や感性に訴えかける要素は特に見られません。性能は決して悪くありませんが価格に対して良いわけではなく、同じく価格に見合った高級感や上質さは感じられません。走行性能に興味がない人に向けた車だと思います。デザインを重視するために視界は悪く、安全性の根幹が犠牲になっている点は気になります。
ただし、価格が高いだけあってカタログだけ見て得られる「派手なだけのコンパクトSUV」という印象に対して乗り心地や静粛性といった点は想像以上に良いです。オプションがほとんど不要である点やある程度の保証された下取り価格、そして国産車らしい耐久性や部品代の安さも考えれば悪い車ではないでしょう。
総括すると他に選ぶ車がなければなし崩し的に候補になりえる1台です。
セダンやステーションワゴンは絶滅寸前です。「車にお金を掛けずに残りの人生を」という趣旨で基本的に国産車をターゲットに車選びをしているためなし崩し的に候補になりえると考えています。長らくBMWばかり乗り継いできているものの、もはや走りこだわる気持ちはないとはいえどうしても判断基準が高い位置にあります。少しくらいは運転していてワクワクできる車に乗りたいです。