日本には世界に誇る自動車メーカーが数多く存在しており、すべてのメーカーがコストパフォーマンスを重視しています。海外市場においても安くて壊れにくい「高品質」こそ日本車の魅力であり、日本の自動車メーカーも高品質への追及に余念がありません。コストパフォーマンスを重視する背景には日本の自動車製造の歴史が深く関係しているのですが今回はそんな話は置いておいて、安全性に着目してみたいと思います。
なぜなら残念なことに高品質な日本車は安全とは言えないからです。
加害事故と被害事故
車の安全装備は昨今注目度が高まり、CMや自動車メーカーのWebサイトでもPRされていることをよく見かけます。斯くいう私もアイサイトを搭載するスバル・レガシィアウトバックを所有しており、アイサイトと言えば今やスバルの最大のセールスポイントと言っても過言ではありません。
アイサイトに似たセンサーやカメラを利用する先進的な安全装備は世界中の自動車メーカーがこぞって開発を進めています。しかし、こうした安全装備が市販車に搭載され注目を集めるようになったのはごく最近のことです。法律で装着が義務付けられたり、減税の対象になったり、自動車保険料を節約することもできることから急速に拡大し、今や軽自動車にも標準装備される当たり前の装備となりつつあります。
こうした先進的な安全装備はドライバーの不注意を補助して「加害事故」を防ぐ役割はありますが、周囲の交通安全やほかの車からの衝突などの「被害事故」を防いでくれるものではありません。被害事故を防ぐ方法などあるのか、と思われるかもしれませんが車が普及し始めた遥か昔から存在します。それがブレーキランプを始めとした灯火類です。ブレーキを踏めば赤くブレーキランプが点灯し、右左折の前には橙色のウィンカーランプが点灯します。夜間の走行ではヘッドランプが点灯します。
こうした灯火類が他のドライバーに合図を送ることで被害事故を防ぐわけです。昨今注目を集める加害事故を予防する先進的な安全装備に比べ地味ではありますが、遥か昔から法律で義務付けられる灯火類の存在は極めて重要です。
日本の自動車メーカーは安全より安さを重視している理由
被害事故と交通全体の安全性を高めるために灯火類は常に機能していなければなりません。故障して点灯しなくなった場合には速やかに修理する必要があります。しかし、車の外から見ないと気が付きにくい灯火類の故障はドライバーにとっては気が付きにくい故障のひとつです。そのために欧州ではブレーキランプを始めとした灯火類が点灯しなくなった場合には車内の警告灯が点灯するよう義務付けられています。欧州全体で義務付けられる前、40年以上前からドイツを始めとした一部の国の自動車では警告灯が搭載されていました。
当然こうした欧州各国で販売される日本車にも、基準に適合するため灯火類の警告灯1が搭載されるようになりました。被害事故を軽減し、交通全体の安全性を高めるための地味ながらも必須の装備と言っても過言ではないでしょう。
しかし、諸外国でこうした安全装備を搭載したにも関わらず日本の自動車メーカーは日本では法律で義務付けられていない点とコストアップを嫌って四半世紀以上に渡って国内市場で警告灯のない車の販売を続けています。
既に手元にある既知の安全装備を、コストアップによる販売台数の減少を嫌って搭載しないメーカーが安全に対して真摯に考えているとは言えません。昨今注目を集める先進的な安全装備も安全のためではなくセールスポイントとして利用しているだけだと邪推してしまうのも無理はありません。
自己診断機能の発展とともに少しずつ改善している
コストアップを嫌って安全性に目を瞑り続けてきた日本のメーカーもコストアップの問題が解消されるとともに段々と灯火類の警告が表示される機能が備えはじめました。
従来は警告を表示させるために追加の部品が必要でしたが、昨今では自動車の自己診断機能が発展し車載コンピューターの性能も向上したことやメーターやカーナビ以外のディスプレイの装着が一般化したことでソフトウェアの改修だけで警告の表示に対応できるようになりました。
交通安全に関する真摯な考え方ではなく、非常に消極的な流れで問題が解消されつつあります。
自動車メーカーは慈善事業ではなく営利目的である以上は必ずしも安全性を追求する必要もなければ、製品や顧客に対して真摯である必要はありません。多くの顧客が安くて壊れない車に価値を見出していたことも事実です。しかし、そんなメーカーたちが今更になって安全性をアピールする姿には強い違和感を感じます。
車への興味がなく安くて壊れなければ良いと考える顧客と、不都合なことをあえて喧伝する必要のない企業の在り方がかみ合った結果、こうした後ろ暗い事実は知られることもなく段々と忘れられていくのだと思います。
- 電球が主流だった時代には断線警告灯や球切れ警告灯などと呼ばれていました。LEDに主流が移る中でコンピューターによる故障検知や自己診断機能に移り変わっています。 ↩︎