デスクトップパソコンはメーカー製やBTO、自作を問わず「ブーンブーン」や「ウーウー」という小さな周期的な異音が発生することがあります。多くの場合の原因はファンの回転がケース本体に伝わって起こる共振で、ケースのパネルを押さえることで静かになることがあります。
根本的な原因はファン自体のバランスが悪いことにより起こる振動がケースに伝わり、ケースの剛性の低い部分が振動することにあります。そもそもの原因であるケースファンのバランス取りを行うのは難易度が高いうえ手間もかかって現実的な選択肢ではありません。
そこで共振音対策としては大きく分けて2つの対策が考えられます。
対策1.ケースのパネル面の剛性強化
共振音の原因は精度の低いケースファンが起こす振動です。これがケースの特定のパネルに到達した時に共振音を発生させることがあります。
こうしたケースでは共振が発生しているパネルを手で軽く抑えると音がやむことから簡単に発生源を特定することができます。パネルは樹脂、金属、ガラスなどが採用されますが特に不透明な樹脂や金属製のパネルには振動を抑える制振材を張り付けることで共振が収まることがあります。
制振材にはいろいろな種類がありますが、最も手頃で使い勝手が良いのは自動車のパネルの振動を抑えるための製品です。
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小さくカットされていてPCケースの制振にもピッタリです。実際にこちらの製品を使用した実例も後述しています。
ただし、制振材を貼り付けるため見た目が悪く透明なパネルには不向きです。またケース内側が平滑である必要があります。特にPCケースの樹脂製パネルには補強のためのリブが入っていることも多く、張り付ける面が平らな面であることを確かめる必要があります。
対策2.ファンを防振ゴムブッシュを介して取り付ける
次の対策はケースファンが発生する振動をケースに伝える前に抑えてしまう方法です。通常ケースファンはネジを使ってケースに取り付けられていますが、ネジを使う代わりにゴムブッシュというものを使って取り付けることができます。高価なファンには付属していることも多いです。
既存のケースファンを一度取り外してネジの代わりにこのゴムブッシュを使ってケースファンを固定しなおす必要があります。単純に制振材を貼り付ける1つ目の対策よりも少し手間がかかりますが、ゴムブッシュは価格も安いうえ効果も得られやすいです。
また1番目の対策ではケース内面に凹凸がある場合や透明なパネルには不向きでしたが、防振ゴムブッシュはどのような場面でも活躍してくれます。ファン1つにつき4個のゴムブッシュが必要になりますが、多くの場合は16個や20個入りのセット販売なので、ついでにすべてのファンをゴムブッシュ化することでPCの騒音をグッと抑えることができます。
おまけ:ファンコントロールによる対策
ファンによる共振音は多くの場合、特定の回転数帯でのみ発生します。例えば800rpm(毎分800回転)では静かなのに1000rpmになると共振音が発生する。ただ1300rpmになると共振音が収まる。ということが往々にして起こり得ます。
こうした時はファンコントロール機能を使用して、共振音が発生する回転数を使用しないようにすることで対策することが可能です。
実例:ガレリア R37Tシリーズに取り付け
RTX3070を搭載したガレリアのゲーミングデスクトップPCでR37Tシリーズでは水冷用のラジエーターとそのファン2機がフロント側に装着されています。R37Tシリーズのフロントパネルは貧弱な樹脂製で、補強のリブが入っているものの剛性が足りないために共振が起きています。
アイドル状態では発生せず、負荷がかかった状態でも発生しませんが僅かに負荷がかかっている状況で発生するようです。フロントパネルを手で軽く抑えると静かになります。フロントパネルに一番近いのは水冷用のラジエーターに備わるラジエーターファンですが、こちらは通常の防振ゴムブッシュが使えません。
そこでフロントパネルには制振材を貼り付け、その他のケースファンには防振ゴムブッシュを取り付けることにしました。R37Tシリーズの側面パネルを外すと背面と天面にケースファンが確認できます。また写真左下のフロント側にはラジエーターファンがラジエーターに密着する形で備わっています。
防振ゴムブッシュの取り付け
防振ゴムブッシュの取り付けは非常に簡単です。
通常のケースファンはプラス頭のタッピングビスで取り付けられており、計4本のネジで固定されています。これを一度取り外し、ネジの代わりに防振ゴムブッシュを使用してファンを固定します。4本のネジを外すとファンが自由になります。ファンの配線はしっかりと収納・固定されていることがあるため無理に引っ張らないように注意します。
取り外したファンのネジ穴に防振ゴムブッシュを挿入します。ゴムの膨らんだ部分までしっかり挿入する必要があるので、反対側から先っぽを引っ張る要領で取り付けます。
同じようにケースにも取り付ければ完成です。ゴムの柔軟性で保持されているためファンの振動を確実に和らげてくれます。
制振材の取り付け
今回共振が発生していた肝心のフロントパネルには制振材を貼り付けてみます。R37Tのフロントパネルは両サイドのパネルを外してから左右からアクセスできるプラスネジ計4本で固定されています。ネジを外した後は樹脂のクリップで固定されているので慎重に端から引っ張れば外すことができます。
ご覧のようにリブが入っていますがペラペラで共振が起こるのも頷ける作りをしています。BTOパソコンの大手であるガレリアですが、部品を組み立てているだけですから価格競争に勝ち抜くためにもこうしたコスト削減は徹底しているのかもしれません。
今回使用するのは先ほど紹介したエーモンの制振材ですが、表面はアルミで振動を抑える(正確には熱に変換する)ゴム層で構成されており、接着面は自動車部品の防水などにもよく使用されるブチルゴム系です。一度貼り付けると完全に綺麗に落とすのは難しく、作業中も接着面に触れると黒い汚れがつくことがあるので注意が必要です。
リブにあわせて適度な大きさにカットして敷き詰めていきます。本来は振動を抑えるためにしっかりと圧着する必要があります。道具を使って力をかけて密着させるわけですが、今回のパネルは強度に不安があるため指で念入りに抑えつけるに留めました。
対策の結果
ガレリア・R37Tシリーズに上記2点の対策を施してみましたが、結果は見事に効果がありました。
今回はフロントパネルの共振だったことを考えるにフロントパネルの制振材貼付が効果的だったものと思われます。ケースファンの振動の可能性もゼロではありませんが、なにはともあれ問題の共振音が完全になくなりました。
制振材の貼付は綺麗に除去できないことを考えると少しハードルが高いですが、PCケースの樹脂パネルは非常に薄いことが多く共振が起こりやすいです。元々の素材がペラペラですから、制振材の貼付による効果も得られやすいものと思われます。